ホーム>知られざる名曲>ベートーヴェン バイオリン協奏曲断章WoO5
クラシックに興味のない人でもベートーヴェンの名前ぐらいは聞いたことはあるであろう。それほど有名なこの作曲家についてあえて説明することもないように思えるが、一つ言っておきたいのは皆さんが『ベートーヴェン』で思いつく曲というのはほとんど『中期』の曲なのだ。10年以上前に何かのCMで『ベーちゃん、第九以来さっぱりだねぇ。』みたいな台詞があったが、それはただ単に知らないだけ。ベートーヴェンが本領を発揮したのはむしろ後期だ。本当にベートーヴェンが好きな人は後期を聴く。中期の曲だけを聴いて『ベートーヴェンっていいよね』などと言っている人はちょっと反省したほうがいい。ちなみに生涯を通して書かれた作品群は弦楽四重奏とピアノ・ソナタぐらいだ。これらを聴くとベートーヴェンの作風の変化がよくわかるであろう。
さて、ここまで持ち上げてしまったが、このバイオリン協奏曲断章は初期の曲だ。有名なニ長調の協奏曲とは違う。それよりもはるか昔に書かれた作りかけ(しかも一楽章の展開部の途中まで)の曲で、後にウィーンのバイオリニスト、ヘルメスベルガーが補筆完成させた。曲の雰囲気自体はいかにも初期のベートーヴェンといった感じだ。冒頭を弦のユニゾンで始めるなど後の作風を予見させるところがあるかと思えば突然モーツァルト風のシンコペーション(これがなかなか印象に残ったりする)が出てきたりもする。それにしても15分超という演奏時間はその当時の協奏曲としては長い。そしてニ長調の協奏曲も前奏が長いが、この曲も3分以上の前奏を持つ。一楽章の途中までしか作られなかったが、もし3楽章まで完成していればその当時としては異例の長さとなっていただろう。いずれにしてもベートーヴェンがまだいろいろ模索しながら書いた作品、聴いてみる価値は充分にある。
とはいってもモーツァルトを好きな人におすすめ、などという野暮なことを言うつもりはない。まあモーツァルトの贋作のバイオリン協奏曲6・7番を聴くよりは趣向としてはいいかもしれないが、それよりもベートーヴェンの中期の曲しか知らずに過ごしてきた人にそのことを反省したうえで聴いてほしい。もちろんこの曲に限らず他の初期の曲そして後期の曲も聴いていただきたい。
参考CD
ギドン・クレーメル(Vn) エミール・チャカロフ指揮 ロンドン交響楽団 1978年録音 DG
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